トレジャー5/1

秋色ラズベリー■水樹 みねあ■
[前編]


駅へ続く歩道を、街路樹の影を探しながら歩く。
 飛行機が着くのは五時過ぎだから、まだ二時間以上ある。
 九月の末の日曜日、豪樹は額に浮かぶ汗を手の甲で拭いながら時間を持て余していた。

「あれ?」
 見覚えのある赤い髪。烈?
 豪樹一人では入らない、オシャレげなカフェの一席に、烈が座っていた。

「久しぶりー!」
「うわっ!!」
 急に背中を叩かれ、烈は飲んでいてミルクティーをふき出した。

「高校出てから全然会ってなかったし! 豪は元気?」
「ああ、元気だよ」

 高校の入学式で、たまたま烈と豪がいたのに気付いた時は本当に腐れ縁か、はたまた運命かと思ったものだ。
「……元気そうでなによりだよ」
   元気が有り余っている様子ではない。
「夏バテか? もう九月だってのに残暑キビシイから」
「そういうわけじゃないけど……。確かにまだ暑いけど、もう秋だよ」
 そういって窓の向こうの、花屋を指差した。
「もうコスモスが咲いてるし。すぐ寒くなるよ」
「まだ九月だぜ」
「……ああ、そうだね。知ってる? コスモスの花言葉は『愛情』なんだって」
 
 烈はウェイトレスを呼ぶと、自分が飲んでいたのと同じミルクティーを頼もうとして、アイスに変更した。
「汗かいてるね、どこに行くの? いつもこの辺で買い物してるわけじゃないよね」
「ああ、うん。これから空港に行くんだ」
「……」
 烈の驚き様ときたら、豪樹がコップを取り落とすほどだった。固まってしまったまま、ピクリとも動かない。
「お、おー……い? 烈?」

 驚きを通り越して、悲しそうな笑みを浮かべた。

「ゴメン、びっくりさせて。誰か迎えに行くの?」
「ああ、……あ、豪じゃん」
 カラン、とベルの音がして、店内に入ってきたのは豪だ。
左手になにか鞄を持っている。

「あれ!? 豪樹! 久しぶりじゃん!」
 どうやら、烈は豪の買い物が済むまで待っていたらしい。
「さっきここで会ってさ。豪、買えたのか?」
「ああ、コレコレー」
 鞄は、よく見ると、ベージュの皮製の鞄。
 旅行にちょうど良さそうな大きめサイズだ。
「……エド……?」
「いや、ハガレンじゃないから」
 笑いながら、髪をかきあげる。
 少し髪が伸びた豪は、新しい鞄を買って上機嫌だ。それに引き換え、烈は少し沈んでいるように見えた。

「オレもなんか頼んでいい? 腹減ってさ」
「ああ。じゃあ、豪樹くんもケーキ頼みなよ」

 二人分の『本日のオススメ』を頼む。ラズベリーパイだった。
「あ、コレ上手い、作ってみるか」
「豪樹、料理うまいもんなー」
「作ったら持ってってやるよ」
 約束ーとウインクすると、「待ってるよ」と烈は笑った。
さっきまでの憂いは何時の間にか消えていた。




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